劇評

こちらでは書いていただいた劇評をご紹介します。

『YOKOHAMA Short Stories』
今村修(いまむら・おさむ)
1955年生まれ。元朝日新聞記者。
1993年から2010年まで、東京本社学芸部、大阪本社生活文化部などで、主に演劇取材、劇評を担当。
「劇団☆新感線30年 サムライたちの軌跡」(AERAMOOK、2010年)に新聞連載に加筆した「新感線☆物語」を執筆。
昨日はマチネで、UKIYO HOTEL PROJECT「YOKOHAMA Short Stories」(脚本=河田唱子、演出=菊池創、音楽=Ko Tanaka、田中和音)@クリフサイド。横浜の戦後を見つめてきたダンスホールで繰り広げられる、横浜にまつわる5本の短篇ミュージカル。敗戦の詔勅で始まり敗戦の詔勅で終わる約2時間、初見のプロジェクトだが、横浜への深い想いと熱意溢れる舞台を楽しんだ。 5本の物語は以下の通り。
【シウマイ・ガール】 原作は獅子文六「やっさもっさ」。横浜駅で働く崎陽軒のキャンペーンガール(かとう唯)と野球が嫌いなプロ野球選手(松村桜李)との淡く不器用な恋を温かく描く。(時は1952年)
【マッカーサーズ・スイートにて】降伏文書調印のために横浜のニューグランドホテルに宿泊したマッカーサーを迎えたホテル従業員2人(小西のりゆき、岡本悠紀)の奮闘記。(1945年)
【クリフサイド】老舗ダンスホールを設計した中村順平(田村良太)、働いたダンサーたち(飯塚萌木、五十嵐可絵)、ダンサーを愛してしまった男(岡本悠紀)が、それぞれのクリフサイドへの想いを語り歌う。(1946年)
【谷崎潤一郎・ザ・ミュージカル】横浜に住んだ文豪・谷崎の数奇な女性関係と人生を女3人(五十嵐可絵、清水彩花、飯塚萌木)が辛辣に俎に上げる。(1930年)
【周ピアノ】中華街にあった周さんの工房で作られていたピアノ。空襲の中、その貴重な一台を必死で守ろうとする少女(藤倉梓)に一人の青年(田村良太)が出会う。(1945年)
会場のクリフサイドは敗戦の翌年1946年に「山手舞踏場」として開店した老舗のダンスホール。最盛期は200人近い女性ダンサーが在籍していたという。100㎡の吹き抜けのダンスフロア、時代を感じさせるバンドボックスが歴史を感じさせる。生バンドの演奏がドラマに息を吹き込む。ダンスホールなんてまるで縁がなかったのに、何となく懐かしいのはなぜだろう。この空間が記憶の物語を強力にバックアップする。
一本一本が短いので食い足りなさは残るが、内容はバラエティに富んでいて楽しめた。「シウマイ・ガール」には反戦への祈りが色濃く漂い、「マッカーサーズ」は意外なオチにほっと和む。「クリフサイド」の選曲に膝を打ち、「谷崎」は女性視点による辛辣すぎる罵詈雑言に思わず文豪が気の毒になる。「周ピアノ」のトリビアと音楽へのピュアな想いも胸に沁みた。
若手が軸の演技陣は、まだ台詞の借り物感が気になるところもあるが、歌はなかなかに聴かせてくれる。取り分け「マッカーサーズ」の男声デュオによるスタンダードジャズナンバーには聞き惚れた。総じて、歌でドラマが転がる展開は少なく、劇にオリジナルや既成の楽曲がはめ込まれた構成だ。ミュージカルというより音楽劇、歌入り芝居といった趣向か。
欲を言えば、支配人(菊地創)による水先案内はあるものの五つのドラマがほとんど関連なく並べられているのはいささか勿体ない。緩い連作小説のように、物や人でそれぞれの物語に何らかの関係を付けられれば(しかも余計な説明なく)、もっと不思議な空気が醸し出せるのではないか。つい余計な思いつきを弄んでしまった。(敬称略)
https://bit.ly/3tHZJpR
山田勝仁(やまだ・かつひと)
青森県生まれ。演劇ジャーナリスト。
1980年から2015年まで「日刊ゲンダイ」編集局勤務。
現在「日刊ゲンダイDIGITAL」で演劇コラム「演劇えんま帳」を連載中。
国際演劇評論家協会会員。
著書に「寺山修司に愛された女優 演劇実験室◎天井棧敷の名華・新高けい子伝」がある。
中華街・元町から坂を上って10数分。トンネルの入口横にその建物はあった。「クリフサイド」。
 一昨日は横浜・元町のクリフサイドで『YOKOHAMA Short Stories』(脚本=河田唱子、音楽=田中和音 Ko Tanaka、演出=菊地創)
 劇作家・河田唱子が、オリジナルミュージカル「Ukiyo Hotel」を上演するため、立ち上げたプロジェクトの一環として企画されたもので、2020年・2021年の「Ukiyo Hotel Bar」に続き、今年は「Yokohama Short Stories」と題し、横浜を舞台にした5つの短編を上演。
 舞台となるのが、横浜の歴史を見つめてきた「クリフサイド」(1946年建造)。かつてはダンスホールとして華やかな歴史を刻んだ建物だが、近々取り壊しになるという。つくづく歴史ある文化施設を大事にしない国民だ。
 物語はそれぞれ15〜20分。支配人(菊池創)と貴婦人(清水彩花)が案内役。
まずは『シウマイ・ガール』。舞台は1952年。
 駅のホームでシウマイ弁当を売る崎陽軒のキャンペーンガール、チョコ(かとう唯)と、遠征に行く高校野球選手、太助(松村桜李)の恋。獅子文六『やっさもっさ』が原作。人と争いをする事が嫌いな太助はチーム同士が対戦する野球が嫌いだが、気持ちと裏腹にプロ野球選手として活躍していく。
 交際を始めたチョコは彼がもう一度戦争に取られるのではないかと気がかり。戦後7年。2年前には朝鮮戦争が勃発し、日本は他国の戦争特需に浮かれながら、「戦争」の記憶を甦らせる。
「太助さんを戦争に行かせたくない」
「でも、この国が亡くなることになるならボクは戦争に行く」
 愛は国家を超える。恋する2人にとって「たとえ地球が真っ二つになったとしても2人の恋の方が大事」
「国同士が争う戦争なんかよりチョコが大事。戦争なんか終わってしまえば偉い人たちは仲良く手を握る。見知らぬ人たちと戦って死んだ人が浮かばれない。国が滅びようが、僕は戦争に行かない」
 この場面はこんな風に言って欲しかったが。かとう唯は歌唱も佇まいもチャーミング。
次の『マッカーサーズ・スイートにて』(1945年)は、ホテルニューグランド滞在中のマッカーサー元帥をもてなした従業員たちの数日間の物語。マッカーサーが朝食に卵がないと怒りまくったというエピソードを絡め、客室担当(小西のりゆき、岡本悠紀)のすったもんだ。
次いで『クリフサイド』(1946年)はクリフサイドを設計した建築家・中村順平氏(田村良太)とクリフサイドのダンサーたち、ダンサーを愛した男のお話。
 クリフサイドの天井は木造だというのでびっくり。やはり取り壊しは文化破壊だ。
『谷崎潤一郎・ザ・Musical』(1930年)は
横浜に住んでいた文豪・谷崎潤一郎(田村良太)と彼の愛した女たちの愛憎。家庭的な千代夫人(宮田佳奈)に飽き足らず、元々結婚したかった姉(栗山絵美)と関係を持ち、不幸な千代に同情した佐藤春夫(松村桜李)との三角関係。谷崎の奔放な女性関係を皮肉ったお話。
 最後の『周ピアノ』(1945年)は中華街でつくられていた幻のピアノ「周ピアノ」を守る少女(藤倉梓)と青年(田村良太)の出会いを描いたもの。
ジャズバンドの生演奏とミュージカル俳優たちによる歌とダンスで綴るステージは場所の良さもあって実に刺激的で新鮮。役者たちも魅力的。ただ、会場がフラットなので後方の席からはステージが見えにくいのが玉に瑕。
劇中では、カヒミ・カリイの「アルコール」、浅川マキの「かもめ」も使われたが、絶妙のアレンジで一瞬気づかず。
https://twitter.com/moegi…/status/1585988601182945287…
出演はほかに、飯塚萌木、五十嵐 可絵、岡本悠紀、清水彩花。1時間45分。
30日まで。
https://bit.ly/3EN3j8v